「思ってたんと違う」
というのはよくある話で。
期待値が高いときほど、期待する方向性と角度が違ったときの違和感は大きく、残念度のほうが高まる。
「ナンがあると思って来たのに」とか
「現地の風を感じられるかと思った」とかなんとか。
で、方向性は違えど、伝える側の意識とやり方で多少は変えられるんではなかろうか、というお話。
カレー界というフィールドに、それぞれの方向性を持った円錐状の世界観がお互いにやんわりと重なり合い、影響しあっている。実際にはもっと複雑に重なり合っている。世界観はその中で細分化され多層化されている。
なんとなく、脳内にあるカレー界ってこうなってるんじゃなかろうかという、イメージ。
人はわかり易さを求めるものなので、既知の世界観に沿った表現のほうが伝わりやすい。それぞれの世界は深遠であるし、探求するレベルの差はひとそれぞれ。
「ウチはインド料理屋です」
と言ったほうが情報が圧縮されて伝わりやすい。と同時にその世界観から外に出にくい感じがする。本当はそんなことはないんだけど、表現は格段に伝わりにくくなる。
私がカレーを「おもしろい」と思っているところは、そういう世界観から多少離れても「カレー」として存在できてしまうところだと思っている。
たぶん、カレー界に林立する巨大な世界観の谷間にポツンと「オレ世界」がある。そんな感じ。
そして、カレー界は麺類界、丼界、揚げ物界、スナック界などなど、いろんな世界と多次元につながりやすい。
そんな表現の自由度が好きだ。
そしてまだ見ぬフロンティアがあるかもしれない。
割りと「やりたいようにやれる」感が良いところだけど、大きな世界の中にあるちっぽけな世界。
だから自分なりにその世界観の方向性を決めて、育てていかないと人に伝わらない。
ものを作る仕事というのはたぶんどれでも同じだと思うけど、スクラップ・アンド・ビルドの繰り返し。
作っては壊しを繰り返してブラッシュアップ。その積み重ねがより高次の段階に繋がり、それに応じて裾野も広がっていく気がする。
作るからには広めたいし、伝えたいのが人情。いや、中には「わかるやつだけわかればいい」という人もいるけど、私はできるだけ多くの人に楽しんでもらいたいなぁと思う派。
日々、同じような作業をしている中にも発見は多々あり、それらを意識するとまた次の発見や改善に繋がり、レベルアップしていく。そうして高度に先鋭化していく努力と、その結果をできるだけ広く伝える階層的なプレゼンテーションが必要。
受け手のレベルも様々なので、具体的なスパイスや調理法の差異を楽しむ人もいれば、食べてみて好き/苦手レベルの人だっている。
どんなレベルでも、できるだけ、世界観に合いそうな、好きそうな、将来ハマりそうな人たちに向けて、伝える努力は必要かな、と思う。
先鋭化していく作業と、その結果をできるだけ広く応用して伝えていく努力のバランス。
で、話は戻って「思ってたんと違う」問題。
こちらが提供できるもの(左)とお客様が求めるもの(右)が全く違えばそもそも相容れないのであんまり問題ない。
というかこの時点で右のゾーンを取りに行くのは時間の無駄でしか無い。やりたいこととも違うし。
厄介なのが、「一部似た感じの、でも方向性は微妙に違うものを期待してきた」場合。
交わるゾーンの中にいる人には伝わるけど、その外側にいる人には伝わらない。
低層レイヤーかつ外側にいる人は「まぁ、なんか違う」で終わるしそもそもちょっと遠すぎて取りに行くのは無理筋。
比較的高層レイヤーにいるけど、外側にいる人のほうが「思ってたんと違う」衝撃度は高いかもしれない。
感度はあるけどお互いのアンテナの角度が微妙に違ってて、表現もちょっと求めているものと違う。これはなんとなく、お互いにもったいない気がする。
結局、こちらがより高度になって、裾野を広げる努力を続けることで外の領域を取り込んでいくしかないのかな、なんて。
例えば布に染料で絵や模様を描くテキスタイル。布を作ってそれを服や鞄に仕立てて。というのは分かりやすいけど、布に染料で絵を描いて、額装したらそれはテキスタイルなのか、絵画なのか、イラストなのか。
でも作品として素晴らしければ、そんなカテゴリなんて関係ない。「染色の作品ってこんなの」というイメージを圧倒的に凌駕するものが作れればたぶんそんなの関係ない。良いものは良いのだ。
ただ、それを理解するためのとっかかりは少ないので、できるだけ多くの人を楽しませるための創意工夫はもっともっと必要。
マサラキッチンのカレーは、インドとかネパールとかスリランカとか東南アジアとかアフリカとか子供の頃食べた味とか思い出とかいろんなものに影響をうけつつ、フルスクラッチで作ってみようと思って営業しております。
なので、いわゆる「インド感」みたいなものを期待してこられるとかなり裏切ってしまうと思います。現地感ガン無視です。
未熟さ故の「箱庭感」は時として物足りなさを感じるかもしれません。
いつか、「インド人もビックリ」ぐらいのものを作れるようになれば、フラッと「インド感」を求めてご来店いただいても「まぁ、アリっちゃぁアリかもね」程度にはなれているかもしれません。
開業して5年目。ずっと、チキンカレーをいじり倒して紆余曲折ありましたが最近になってようやく1段階上に行けた気がします。それでもまだまだ先は長いです。
こういうスクラップ・アンド・ビルドのお店ですが、できるだけ多くの方にお楽しみいただけるといいなと思いながら作っておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします
m(_ _)m