ご存じの方も多いと思いますが、私の前職はデザイナーでして(カレー屋店長と兼任してたけど)、料理人としての下地が無いままカレー屋店長になったのが12年くらい前。
料理(主にカレー)は好きだけど、飲食店として料理を提供するとはいかなることかという知識がまったくないままスタートしました。
ドラクエで言うならダーマ神殿で「でざいなー」から「かれーや」にジョブチェンジ。
「そうび:ぬののふく」だけ。「ひのきのぼう」さえナシ。
ぬののふくを羽織っただけで城の外でちゃったので、とりあえず武器を探さねばならない。
このままじゃスライムにも瞬殺されちゃう。
「かれーや」としてはLV1なのでそれはまぁコツコツ経験値をためるしかない。
とはいえ、「かれーや」からスタートしている他のプレイヤーと比べればもう圧倒的に差がある。同じ方法ではこの差はなかなか縮まらないし、同じ土俵では勝てる気がしない。。。
で、考えたのが前職の「でざいなー」で培ったスキルをどうにか転換できないだろうか。
純然たる料理人としてのレベルアップはコツコツやるけども、それ以外に戦える武器が欲しい。この時「小僧…力が…欲しいか?」と耳元で囁かれてたら食い気味に「ハイッ!」と言ってたかもしれない。
調理や盛り付けはビジュアル表現なのでまだ分かりやすいけれど、問題は味や香りの表現。
形はないが確かにそこにある味や香りをどう表現するか。
ソムリエはワインの味や香りを豊かな言葉で表現するけど、私にはそれは向いてない。
どんなものづくりでも、仕上がりのイメージは大切で、それが曖昧なまま作り始めると大抵の場合狙ったところに着地しないし、どっち付かずのフワフワした仕上がりになることが多い。
これは料理でも同じで、舌の上に広がる味の変化や鼻腔を抜ける香りのイメージが明確な方が、調理手順や調味料、スパイスの配合が適切になる。まぁ、当然ですよね。
姿形のない「風味」を定量化する一般的な手法が「レシピ化」ですが、レシピ化は風味以外の要素も含めた料理全体を再現するための仕様書。私の場合はまずその「仕様書」を作ることができないので、そのための要素の一つ「風味ツール」の開発から。
ここで「風味ツール」に求めることは
- 風味のイメージを何らかの形にしてストックする
- イメージを豊かにするための補助ツールとしても機能する
の2点。
「風味のイメージを何らかの形にしてストックする」にあたって、言葉で表現するには私の語彙力は頼りないので、前職のデザイナーのスキルを活かして「風味をビジュアライズする」手法を取ってみることにした。
具体的には、感じた風味を、仮想空間上にオブジェクトとしてイメージして、形状、色、質感、量感、重なり、柔らかさ、動きなどに置き換える訓練をする。
結局これも訓練するしか無いんだけど、言葉で表現していくよりも脳内に3D(時には2D)イメージとして関連付けていくほうが、前職デザイナーな私としてはいくらか分がある気がする…たぶん。
ポイントは「あまり考えないこと」で、ファーストインプレッションをできるだけスムーズに形にしていくこと。イメージとしてはカラフルで3Dだけど、アウトプットとしてはドローイングやクロッキーに近い。非常に直感的・感覚的なので、「定量化」という意味では他の人と共有できないんだけども、私自身が過去に感じた風味を思い返したり、開発中のレシピを記録していくにあたってとても有効。あくまで私にとって。
ツールを作るといいながらこの部分はひたすら私の脳内で開発されてるのでツールと言っていいものかどうか^^;
この手法の目標は「味覚や嗅覚を言葉よりも豊かな表現で記録」することなので、イメージが稚拙にならないような仕組みが必要。ということで「イメージを豊かにするための補助ツールとしても機能する」部分を作る。ここに関してはテクノロジーの力を借りる。借りまくる。
補助ツールなので、「自分の能力のちょっとだけ先」を目指す。
私には3Dで表現するツールを作る能力が無いので、2Dで表現。
更に構成要素を
- 形状
- 配色
- マチエール
の3要素とし、これらをランダムに組み合わせてできた画像からインスピレーションを得ることを狙う。
3要素の素材はあらかじめ自分で作成するので、これを自動的に組み合わせると「普段なら絶対やらないような組み合わせ」や「ハッとする新しい組み合わせ」が生まれて、「自分の能力のちょっと先」が刺激され、それをとっかかりに更に先のイメージが広がる可能性があるんじゃなかろうか、という目論見。
もはやマイナー言語となってしまったPerlのスクリプトでImagemagickを動かして画像を量産。圧倒的量産。2万枚ぐらいサクッと量産。
↓で、これらをランダムに組み合わせたりなんだりで…
こんな感じで大量に。
これらひとつひとつが特に意味があるわけではないですが、あるときは部分に、あるときは全体に、あるときは形状の組み合わせに、あるときは配色にハッとすることがあり、その積み重ねが感性を豊かにしていくとっかかりのひとつになるのかなと思います。
…てな感じで、味覚を形にする訓練と、新たなイメージを獲得する訓練によって、「そうび:ぬののふく」以外に新たな武器を装備、日々アップデートを続けているのでした。
これらのイメージを組み合わせながらレシピを開発しているマサラキッチン、はたしてその成果が出ているかどうかと言われればアレかもしれませんけどね。